予告
「|稲荷《いなり》さん、か」 いつも通りの呼び方なのに|湊《みなと》くんに「|稲荷《いなり》さん」って呼ばれるとどこかさみしかった。 日記を読み返してみると、いろんなことがあったなあ。 最初は|大河《たいが》とくるみちゃんのことばかりだったのに、 |湊《みなと》くんと出会ってから|湊《みなと》くんのことを書くことも増えてきた。 |湊《みなと》くんに告白された水族館、 |大河《たいが》に告白された夏祭りの日は ドキドキして字が震えたり勢いで書き殴った跡がある。 |湊《みなと》くんはただ憧れていただけなのに。 |大河《たいが》はいつも一緒にいるだけだったのに。 こんなことになるなんて。 |湊《みなと》くんも|大河《たいが》もいつものように接してくれているけれど、私に何ができるんだろう。 私が答えを出すことでいつも通りが崩れたらどうしよう。 日記を読み返して、こんなに胸が苦しいのは初めてかもしれない。 そして、くるみちゃんも学校を休み続けている。 やっぱり、私のせい? 「いつも通りに過ごせるって、幸せなんだね」 私は思わず泣きそうになってしまう。 答えを出すってこんなに難しいんだ。 自分の答えを私に教えてくれた|湊《みなと》くんや|大河《たいが》、 この間|湊《みなと》くんに告白していた|小清水《こしみず》さんがすごく大人に見える。 |大河《たいが》のお兄さん、天さんもお付き合いしている人がいるって言ってたよね。 みんな、どんどん大人になっていく。 大人ってよく分からないけど、 ちょっとした心の変化や成長も 大人になるってことなんだろうな。 「困ったな」 嬉しかったり、ドキドキしたり、悩んだり、モヤモヤしたり 色んな感情が頭を巡る。 その疲れで、そのまま眠ってしまった。 —翌日 いよいよ、明日から夏休み・・なんだけど |湊《みなと》くんとは学校では会わないように言われているから 何をしているのかは分からない。 くるみちゃんはやっぱり休み。 いつも通りなのは|大河《たいが》と|流星《りゅうせい》くんだった。 「ほのぴ!おはー!なんか悩んでるの?俺で良かったら聞くよ!」 目の前には|流星《りゅうせい》くんが目を輝かせて立っている。 私がぽかんとしているところに|大河《たいが》が入ってくる。 「ほのかの悩みに相談に乗るとか気安く言うな、秋月」 「|大河《たいが》!俺のこと、|流星《りゅうせい》でいいよー、なんかよそよそしいの嫌なんだよね」 「はあ。じゃあ俺も|大河《たいが》でいい」 |流星《りゅうせい》くんは良くも悪くも態度変えないよなあと思ったけど、女の子は例外なんだよな・・。 ということは|小清水《こしみず》さんのこと、何か知らないかな? 「あのさ、|流星《りゅうせい》くん。天文部の|小清水杏奈《こしみずあんな》さんって知ってる?」 「|小清水《こしみず》さん?知ってるよ!めちゃくちゃ可愛くて天使みたいだよね!・・どして?」 「えーっと、星座の力を持ってるかもしれないんだ」 「まじで!?俺達の味方になってくれたりしないかな?」 「うーん・・|湊《みなと》くんの敵にはなりたくないって言ってたよ。 だから敵かもしれなくて。情報収集してる|流星《りゅうせい》くんなら何か知らないかなって思ったんだけど」 「女子の誕生日とかそういう情報は分かるけど、 星座の力ってなると|鈴原《すずはら》パイセンが詳しいっしょ・・俺も分からないもん」 「なんだ、本当に女子の情報しか持ってないんだな、先輩見習ってまともな情報収集しろよ」 「むっかー!|大河《たいが》は塩対応だなー!」 そうした話をしているうちに朝礼のチャイムが鳴り、自分たちの席に戻る。 |流星《りゅうせい》くんが星座の力に関しては知らないとなると、めりの先輩の情報頼みになっちゃうな。 教壇に|十蟹《とがに》先生が立つ。 ・・・|十蟹《とがに》先生? |十蟹《とがに》先生ってかに座の力をずっと持ってるけど、本当に何も知らないのかな。 お昼は|大河《たいが》と二人でいつもの場所で食べる。なんだか落ち着く。 「|流星《りゅうせい》が星座の力について知らないってなんか意外だな。自分の力なのに興味ないのかな」 「星座の力って欲しがって手に入るものじゃないだろうし・・ 私も突然のことでめりの先輩から聞くまで理解できてなかったんだよね。あと実用性があるかって聞かれるとそうでもないし・・」 「まあそうだな。|流星《りゅうせい》って目立ちたがりやだから、みんなにバラしてそうだなって思ったんだけど、それもないから不思議だと思ったんだよ」 「なるほど・・誰かに口止めされたのかな?・・やっぱり|十蟹《とがに》先生しかいないよ、私達の担任だし!ちょっと行ってくるね!」 私はお昼休みに職員室に行く。 もちろん、|十蟹《とがに》先生に会うために。 「|十蟹《とがに》先生、ちょっといいですか?」 「・・ほのかさん、なんとなく話したいことは分かります。場所を変えましょう、ピース」 |十蟹《とがに》先生と廊下に出る。 「あの、|流星《りゅうせい》くんに星座の力について口止めしたのは|十蟹《とがに》先生ですか?」 「そうです。|流星《りゅうせい》くんが喋ってしまえばおしまいですからねえ、ピース」 「・・他に星座の力に目覚めている生徒がいると思うんですけど本当に知らないんですか?」 私はどんどん|十蟹《とがに》先生に質問していく。 |十蟹《とがに》先生は穏やかな表情を崩さず、落ち着いて答える。 「知ってます。でも私からは言えません。 みなさんで答えを見つけて解決してほしいと願っているからです、ピース。 物騒なことがあれば教員としてできることをしたり、 かに座の力で壁を作るくらいはしますが、それ以外はみなさんの力で導いてほしいのです、ピース」 「・・分かりました。ありがとうございます」 |十蟹《とがに》先生は私達を信じていて、私達でなんとかしてほしいと思っているんだ。 それに私達が懸命になってやっていることに|十蟹《とがに》先生が口出ししたり手を出したらスッキリしない気がする。 知らないほうが良かったのかもしれない。 そして、教室に戻ると|流星《りゅうせい》くんが私に駆け寄ってくる。 「ほのぴ!これ見て!俺の分だけど、机にはほのぴの分もあって!」 |流星《りゅうせい》くんが持っているのは星空のメッセージカード。なになに? —|星天祭《せいてんさい》の夜はとびっきり暴れます☆ |星天祭《せいてんさい》というのは、|星ノ川学園《ほしのかわがくえん》で開催される大きな文化祭。 このクラスで|流星《りゅうせい》くんと私に同じカードがあるということは 星座の力を持つ、|湊《みなと》くん、なおきくん、めりの先輩、|星華《せいか》先輩、|月華《つきか》先輩にも同じカードが届いているはず。 私の机にも同じカードが置いてあった。 誰が置いたかは|大河《たいが》に聞いても分からなかった。 「暴れるってどういうこと?」 「・・|桃羽《ももは》先輩がこの日を決戦日にしたってことじゃないかな」 「マジか。やばくね?」 「とりあえず、放課後めりの先輩に会いに行こう。なにか知ってると思う」 私と|流星《りゅうせい》くんが話していると、|大河《たいが》が入ってきた。 「その話、俺も入っていい?星座の力はなくてもなにかできることがあると思う」 私と|流星《りゅうせい》くんはうなづく。