夏の思い出
「とりあえず歌ってみたら?私たちはいいから」 「いいんですか!?くるみちゃんの声援がすごくてカラオケもあまり行けてなくて」 夏休み。私はめりの先輩に誘われ、|星華《せいか》先輩、|月華《つきか》先輩とともにカラオケにいる。 めりの先輩はともかく、|星華《せいか》先輩と|月華《つきか》先輩が歌っているイメージってないんだよなあ と私が二人の方を見ると二人はドリンクのメニューを見ている。 「|月華《つきか》、このキャラクター出たら欲しいな」 「いいよ、|星華《せいか》のお目当てが出るといいね」 ドリンクを注文するとキャラクターの イラストが描かれたコースターがもらえるみたい。 何がもらえるかはその時にならないと分からない。 「あの、私もドリンク注文するので、もし当たったらあげますよ」 「いいの?ほのか。好きなキャラクターだから嬉しい」 「しょうがないわね、私も注文するから、当たることを祈るしかないわね」 めりの先輩が端末からドリンクを注文する。 |星華《せいか》先輩は祈るように手を合わせている。 |月華《つきか》先輩は「大丈夫、ひとつくらい当たるわよ」と声をかける。 そしてめりの先輩が私に向かってマイクを差し出す。 「ドリンクの注文も終えたし ・・今度こそ歌ってもらいましょうか、|稲荷《いなり》ちゃん!!」 めりの先輩の声がマイクに響く。普段の声も高いけれど、マイクに響くと更に高くなる。 アニメのキャラクターみたいな声でめりの先輩も歌えば上手いんだろうな。 「本当にいいんですか?」 めりの先輩たちはキラキラさせながら私を見てうなずいている。 私はいつも歌う明るい曲を端末から予約した。 いつもの曲。久々に歌う。 お腹から声を出すってやっぱり楽しい。 恐らく、めりの先輩たちが知らない曲だろうけれど 私にとっては元気を出したいときに聞いたり歌う大事な曲。 2番からはめりの先輩たちもメロディを理解したのか合いの手などを入れ始める。 それが嬉しくて、くすぐったかった。 そして歌い終わった瞬間、拍手があふれる。 私は「ありがとうございました!」と一礼する。 「いやあ、この場に|七木《ななき》くんと|瀬名《せな》くんがいなくて良かったわね。 いたらイチコロよ。そして・・|稲荷《いなり》ちゃんが歌うたび くるみちゃんの声援のうるさい感じはなんとなく想像できた」 「い、イチコロ!?そんな、私あまり歌は上手じゃないですよ。 そしてくるみちゃんの声援は想像のとおりだと思います」 めりの先輩はまだ拍手をしてくれている。 |星華《せいか》先輩と|月華《つきか》先輩も褒めてくれた。 そこから空気が変わり始める。 「で?話聞くけど」 「ほのか、修羅場だもんね」 「その話、聞かせて」 好奇心旺盛な顔つきになっためりの先輩たちは私を見つめる。 「なんでみなさんそんなにキラキラしてるんですか・・・」 「こういう展開、漫画やドラマでしか見たことなかったから 本当に見れるなんて思わなかった」 「ちょっと|月華《つきか》!」 「ああ、なるほど」と私はすぐに理解した。 |大河《たいが》と|湊《みなと》くんのことだろうなって。 「いいんです。私もこうなるとは思ってなかったので。|大河《たいが》も|湊《みなと》くんも返事は待つと言ってくれました。 でも|湊《みなと》くんは友達でいられるか分からないって言ってて」 「まあ、そうなるわよね。この間の|瀬名《せな》くんと|七木《ななき》くんはいつも通りに見えたけど。 彼らなりにいつも通り振る舞おうとしたんでしょう。 それに|瀬名《せな》くんも|七木《ななき》くんも|稲荷《いなり》ちゃんのこと、かんたんに嫌いにはならないわよ。 嫌いになったら結局その程度の愛ってこと」 「すごい!めりのは大人ね」 |星華《せいか》先輩が感心する。 けれどめりの先輩は顔色を変えず喋り続ける。 「褒めたって何も出ないわよ。まあ調べてたからこうなるって予想してたけどね」 「そうなんですか?さすがめりの先輩!! ただ、私が答えを出すことでいつも通りの日常が崩れたら って思うだけで怖くなるんです」 そう、私が|大河《たいが》や|湊《みなと》くんに返事をした瞬間、いつもの日常は崩れてしまうかもしれない。 これまで通り話したりすることができなくなるかもしれない。 それだけが、怖かった。 その様子を察したのかめりの先輩は私の肩に手を当てる。 「いい?|稲荷《いなり》ちゃん。私たちは変わっていくものなの。 心も人付き合いも変化のないものなんてない。 変わらないものもあるけどほとんどは変わっていくわ。 そして|稲荷《いなり》ちゃんが深刻に考えるほどの変化は起きない」 「なんでそう言い切れるんですか?」 「|瀬名《せな》くんも|七木《ななき》くんも|稲荷《いなり》ちゃんの出す答えを受け入れる覚悟があるから。 二人を信じて、|稲荷《いなり》ちゃんも自分に正直になりなさい」 それを見ていた|月華《つきか》先輩と|星華《せいか》先輩もうなづく。 「そうね。二人にドキドキしてるままならほのかは甘えているだけ」 「今度はほのかが一歩踏み出す番」 ・・・そうだよね。 二人は勇気を出して私に思いを伝えてくれたんだ。 今度は・・私の番だよね。 「はい。二人が勇気を出してくれたように私も一歩踏み出します」 私は真剣に伝えた、つもりだったんだけど、めりの先輩はニヤリと笑っている。 「で?どっちに告白するの?」 「え、ええっと」 「冗談よ。頑張りなさい」 そしてめりの先輩は真剣な表情に戻す。 「|瀬名《せな》くんには伝えたけど一応。|秋月《あきづき》くんの本命は|稲荷《いなり》ちゃんじゃないわね。 言動とか目を見れば分かるし、|月華《つきか》にベタベタしてたわね」 「その|秋月《あきづき》って子、初対面のときもそうだったし、話聞く感じ本当嫌い。シメる」 「|月華《つきか》、|秋月《あきづき》くんはさそり座の力を持った子なのよ、敵に回したくない。ほどほどにしてあげて」 |月華《つきか》先輩は顔をぷくっと膨らませて怒っている。 その様子がどこか子供っぽくて可愛い。 そう言ったら怒られるんだろうけど。 考えていたら、|星華《せいか》先輩が私に声をかけてくる。 「ねえねえ、ほのか。どうして|大河《たいが》くんと|湊《みなと》くんにドキドキするの?」 「あ、私も気になる」 「こら!二人とも!!」 どうして・・だろう。 そういえば、あまり日記にも書いてなかったかも。 「えっと。|大河《たいが》はずっと隣にいてくれてみんなの兄貴 というかお兄ちゃんができたような安心感があって、面倒見も良くて優しいんです。 |湊《みなと》くんは憧れだったけど|湊《みなと》くんの知らない一面が見えるたびに嬉しくなったり 自分の心を読まれているんじゃないかって思うこともあります・・・ って話したら緊張してきた・・・」 「青春・・・!!!」 「でも言葉にしたら答えに近づいたんじゃない?」 たしかに。恥ずかしいけど、答えに近づいたかも。 流星群の日には、伝えなくちゃ。 めりの先輩が二人を止める。 「二人とも、恋バナが好きなのね。まったくもう。 で、話変えるけど残りの星座がおうし座、いて座、てんびん座、やぎ座、みずがめ座なのよね。 |小清水《こしみず》ちゃんがどれかの星座の能力者なのは確か。 |七木《ななき》くんが星座の力に目覚めたら心強いけど都合よく目覚めないか」 「どうして|大河《たいが》が?」 「協力的だし守秘義務もしっかりしてそうだし こんな子がなぜ星座の力に目覚めてないんだろうって思うわ」 「私もそう思う」 「星座の力に目覚めなかったら剣道部から竹刀を借りたいって言ってたわね・・」 「ほ、本当に言ってたんだ・・」 |大河《たいが》は星座の力には目覚めていないけど、 星座の力に関することは周りには喋っていないし、私達にも理解を示してくれている。 それを考えれば、|大河《たいが》はどうして星座の力を持ってないんだろう。 星座の力の目覚めの基準が正直良く分からない。 |桃羽《ももは》先輩側についてる人が星座の力の持ち主かもしれないし まだ眠っている星座の力もあるかもしれないし。 色々話しているうちに注文したドリンクが届く。 「さー!飲むわよ!」 「めりの、おじさんみたいな事言わないで!」 「みんな、コースターの絵柄見せて」 みんなで|星華《せいか》先輩に頼まれていたコースターを開封する。 すると、全員同じ絵柄だった! 「こ、こんなことってある!?」 「私の好きなキャラクターだから本当に嬉しいよ、みんなありがとう」 |星華《せいか》先輩の好きなキャラクターのコースターが4枚並んでいる。 私達はドリンクやコースターの写真を撮る。 |星華《せいか》先輩が喜んでくれたなら、嬉しい。 「せっかくだし、記念撮影しましょ」 めりの先輩がスマホのカメラを構えて集合写真を取る。 夏休みの思い出ができた。 けれど、カラオケで歌ったのは・・私だけでは? 「・・あ、あれ・・?三人は歌わなくていいんですか?」 「え?元々、|稲荷《いなり》ちゃんの歌と話を聞くためだったから、私達は歌わないわよ。 それより、宿題はちゃんと持ってきてるんでしょうね?」 「・・も、持ってきてます」 「それじゃあ、次はカフェで勉強会よ!」 私は久々に歌えたことで舞い上がっていて、 勉強会の予定があることをすっかり忘れていた。 宿題をカバンに詰め込んだ昨日の私に感謝して、そのままカラオケをあとにした。 「ほのか、私も勉強追いついてないから一緒に頑張ろう」 「はーい・・」 |月華《つきか》先輩に慰められながらカフェへ向かい その後はガッツリと勉強漬けの一日になった。